若手内科医の雑記ブログ

試験勉強や興味あるものを書いていきます

第48回神経内科専門医試験の感想

第48回神経内科専門医試験に受かりました。

受験者数が少ないこともありなかなか情報がなくて不安が多かったため、今後受ける先生の参考になればと思いブログを開設しました。あくまで個人の感想ですので参考程度に考えていただければ幸いです。試験対策として行ったことを備忘録的に書いており、それ以外の意図はありません。

第47回の試験が2022年2月、第48回が2022年10月と半年ちょっとの間隔で行われました。私は内科専門医へ移行した初代の世代だったので、神経内科専門医の研修で神経内科版Josler(新制度で研修している先生には伝わる表現だと思います)で症例登録を規定数行う必要がありました。当初90症例必要だったはずですが、新型コロナの影響なのか45症例ほどでよくなりこの点は負担が減りました。

私は市中病院勤務だったので症例の大半は脳卒中でした。その他の疾患は最低限しか登録していません。突っ込まれるとしたら面接試験で症例の偏りを指摘されるかと思いましたが、面接官の先生からは「脳卒中多いね」ぐらいで終わったので、100文字の症例登録は突っ込まれることを心配し過ぎる必要はなさそうです。A4用紙2枚のレポートはかなり突っ込まれるのでこちらは症例をきっちり選んだほうがよいです。

2022年3月ごろまでにレポートを書き上げ、4月ぐらいから一次試験の勉強をはじめました。主に使用した参考書は以下のとおりです。

神経内科専門医試験問題 解答と解説

医学生•研修医のための脳神経内科

◯神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために

◯ここからはじめる!神経伝導検査•筋電図ナビ

◯ここに目をつける!脳波判読ナビ

◯臨床のための筋病理

◯カラーアトラス末梢神経の病理

◯神経病理インデックス

◯頭痛外来専門医が教える!頭痛の診かた

これに加えて、有志が作っている過去問を5年分やりました。

最初に「神経内科専門医試験問題 解答と解説」を問いてみて、ほとんど解けず知識のなさに絶望します。過去に試験を受けた先生方のブログなどでも同様のことが書いてあるのでそういうものなんでしょう。数年前までの過去問しか載っていないですが、解説がしっかり書いてあることと、この本が本試験唯一の公式問題集なので避けて通ることはおすすめできません。一通り問いて(読んで)、自分の知識のなさを確認してから「医学生•研修医のための脳神経内科」を通読しました。この界隈では通称神田本と言われているようです。普通に分厚い本ですが、読みやすい文章で書いてあり最低限これだけは知っててほしい、という内容が書いてあるので通読はそこまで苦になりませんでした。著者の神田先生は神経内科専門医試験の認定委員長を努められたこともあるようなので(第46回日本神経内科専門医試験の総括)、その意味でもほぼ公式本と考えて使用しました。神経内科専門医試験は神田本を丸暗記すれば受かるという意見もあり、気合を入れて読むに値する本だと思います。私は試験本番までに4周しました。試験会場でも持っている受験者の先生が多かったです。ちなみに私は試験以外に実臨床でも読んでいます。処方例などは書いてないのでアンチョコ的な使い方には向きませんが、普通に教科書として良書です。

電気生理を学ぶ時に読む本は「神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために」が多いと思いますが、私は電気生理が苦手なこともあり(そもそも得意と言える領域はないですが...)、なかなか頭に入ってきませんでした。「ここからはじめる!神経伝導検査•筋電図ナビ」のほうが比較的読みやすかったので、こちらを先に読んでから足りない部分を「神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために」で補うように使いました。電気生理で出題されるのは大抵神経伝導検査と筋電図なので、普段臨床で電気生理をやっている先生は簡単かもしれません。有志の過去問で対策してもいいとは思いますが、筋電図の画像問題などは再現者によってそもそも答えが違う画像を持ってきているため(fib、fasciculationなど)なかなか体系的な勉強が難しいです。画像問題自体再現者によって異なるのは仕方ないですが...。他に筋電図領域で個人的に厄介だったのは、健常者で見られる筋電図所見はどれか、みたいな問題です。PSWやfib、fasciculationなどを並べられており、PSWとfibは本質的に同じものなのでは?と思いますがテストである以上どれかを選ばねばならず、結局よくわかりませんでした。上述の参考書をみても正解が違っており、仕方ないので自院の電気生理の先生に聞いたら更に答えが別れるというスパイラルに入りました。幸運にも本番ではそのような問題は出ませんでしたが...。

脳波についてはそこまで難しい問題が出るわけではないようなのでどれで勉強してもよさそうです。難易度と対策する時間のバランスを考えると、 薄めの(入門書的な)本を一冊通読すれば十分対応できると思います。

神経内科の専攻医で普段から病理を見慣れている先生は多くない気がしますが、病理分野は確実に出題されるため対策は必須になります。筋病理は「臨床のための筋病理」がベストだと思いますがなかなか通読は困難な分量です。過去問を問いてみてわからない時に調べる用に使いました。筋病理で出題されやすいのは炎症性筋疾患、筋ジストロフィーミトコンドリア病、ALSなどだと思います。

末梢神経病理は軸索変性と脱髄の、急性期と慢性期の所見を判断した上で答える問題が多い印象です。あとは抗MAG抗体陽性ニューロパチーなど、特徴的な病理所見がある疾患を抑えればなんとかなりました。

中枢神経の病理もよく出題されます。こちらはマクロ病理も判断できるようになっておく必要があります。「神経病理インデックス」や東京都医学研のホームページで目を慣らしました。変性疾患は神経内科の領域なのでCPCなどでもよく出てくると思いますが、脳腫瘍の病理も出題されます。私は普段脳腫瘍の症例は全例脳外科に依頼しているので、脳腫瘍の病理が全くわかりませんでした。過去問の再現でも再現者によって全く異なる画像が呈示されているので、皆苦手な分野なのかもしれません。出題されても1問ぐらいだと思うので、最悪捨てても合否には影響しない可能性があります。精神衛生上は良くないですが...。

頭痛も1題は出題される分野です。幸い出る疾患は限られてくるので対策すれば得点源になると思います。試験勉強のために読んだわけではないですが、「頭痛外来専門医が教える!頭痛の診かた」で神経内科専門医試験で問われる頭痛の大半をカバーできるのでオススメです。大概TACs、片頭痛群発頭痛、RCVSなど抑えておけばなんとかなります。片頭痛関連でCGRP製剤が話題になっているので、ここは覚えておいたほうが良いです。私は一般名をど忘れして非常に悔しい思いをしました。ちなみに二次試験の時にもCGRP製剤について質問されました。

認知症高次脳機能障害は過去問を解きながら、ガイドラインを調べたりして対応しました。この領域については特に参考書は買っていません。

疾患ごとの遺伝子についても有名どころは覚えておく必要があります。ミトコンドリア病やトリプレットリピート病、CADASILなどは頻出なので覚えればよいですが、ALSや家族性パーキンソン病の遺伝子を覚えるかどうかで悩みました。結局、選択肢で出された時に正答を選べればよいので、ふわっと覚えるぐらいでなんとかなりました。ただパーキンソン病は過去問に出た遺伝子は覚えたほうがよいです。

毎年初めて出題される疾患がいくつかあり、これらは翌年以降で再度出題される可能性があります。ですので過去問で出題された疾患は一通り知っておいたほうがよいです。

過去問の解答やコメントで、前年の試験で正答率が低い問題がリベンジで出題されやすいと書いてあったので、専門医試験の総括も目を通しておくと良いと思います。神経学会総会で専門医セミナーを毎年やってきて、セミナーの中からも出題されるという噂があったためレジュメを覚えるレベルで読みましたが結局出ませんでした。ただ、専門医セミナー自体は実臨床にも役立つ内容でしたので、試験に出るかどうかは別として受講しておくと良いと思います。

今更ですが有志の過去問は受験者が再現しているのでどうにかして入手する必要があります。私は大学医局に所属しているので同期の先生からもらいました。もらう代わりに自分の受けた問題を分担して再現することになっています。私が受験した時は試験終了後に問題暗記する時間などはなくそのまま回収されました。もしかしたら受ける年度によって多少異なるのかもしれませんが、試験後に覚えるための時間はないと思っておいたほうが無難です。

二次試験は口頭試問と神経診察です。各20分ごとで行います。手荷物も全部持って部屋に入るので、遠征組はなかなか辛いところです。会場はホテルなのでクロークに預けるとか駅のロッカーにスーツケース預けるとかした方が楽かもしれません。私は2-3泊程度の旅行や学会はブリーフケース一つで事足りるので手荷物として持って入りました。部屋に入ると試験官が2人ずついて、神経診察のブースは模擬患者も1人います。おそらくバイトの人だと思いますが、普通に壮年期の人が模擬患者だったのでもしかしたら偉い人かもしれません。模擬患者=学生みたいなオスキーのイメージで行くとびっくりします。試験官も大学教授や市中病院の部長らしいのですが、私は不勉強のためご尊顔を存じ上げず、逆に緊張せずにすみました。ちなみに試験開始前は部屋の扉の前で待機して、呼ばれたら入りましょう。呼ばれまでは扉開けてはいけません(前の受験者がまだいる)。このあたりは学会側からアナウンスがないので要注意です。口頭試問、神経診察の両ブースで二回ともやらかしたので本当に注意が必要です。すごく焦ります。

神経診察では試験官が出題してくる診察を行います。私はNIHSS、腱反射を取りました。そこまで厳しい内容ではなく、穏やかな雰囲気で終わりました。眼底鏡も持って行きましたが全く使いませんでした。ちなみにNIHSSの感覚をみるときは爪楊枝を使いました。

口頭試問ではレポートについていろいろ聞かれました。略語で質問され、???となっていたら日本語で言い直されました。普段から英語や略語を使うようにしたほうが良いのでしょうか...。レポートに書いた疾患について治療介入しない場合の想定される経過も聞かれ、全く答えられず...。二次試験は対策困難とよく言われますが、レポートの症例や疾患についてはきっちり答えられるようにしておいたほうがよいです。本番では質問されない可能性も当然ありますが、唯一準備できることがそれぐらいなので。他にできることとしては美容院に行くぐらいでしょうか。基本的に身だしなみは問題ないと思いますが、念の為二次試験の週で美容院なり床屋で清潔感をブラッシュアップしておいたほうが良いかもしれません。私は2年ぶりぐらいに美容院に行きました(コロナ禍ということもあって普段は自分で切ったり、妻に切ってもらってます)。

二次試験が終わって1週間後ぐらいに合格発表がネット上および郵送で行われます。神経内科専門医試験は合格者の名前がネットに上がるので、同期が受かったかどうかもわかります。私は自分で結果を見る前に職場の上司から連絡がきて自分の合格を知りました。

専門医免許?は3月に届きました。新専門医制度に移行した関係で、専門医の登録費用は翌年以降に払うみたいです。

専門医を取れれば、晴れて難病指定医と身体障害の指定医の申請ができます(専門医なくても取れるみたいですが)。

プレッシャーの大きい試験ですが、神経診察や鑑別診断の考え方などが試験勉強前よりも明らかにレベルアップしたように思います。院内カンファなどでも自分のできる議論のレベルが上がった気がします。しんどい試験ですが、それ以上に得られるものが大きい試験であることは間違いないです。これを読んでいただいている方はおそらく受験を考えている先生だと思います。試験勉強はしんどいことが多いですが頑張ってください。

ちなみにアクセス数解析をみたところ、こんな内容のブログでもそこそこの方に読んでいただいていることがわかり感激です(とはいえ2023年8月末時点で50人ぐらいですが、受験者数を考えると十分すぎる人数です)。

誤字があったので一部修正したのと、加筆しました。ざっとGoogle検索した感じでは第48回の神経内科専門医試験について述べているブログはあまり見つけられなかったので、少しでも役に立てば幸いです。

ご質問等あればわかる範囲でお答えします。以上です。ここまでお読みいただきありがとうございます。長文失礼しました。